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2024年04月27日
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クリスマスの夢

2012年12月25日
元旦でもなんでもないので全く縁起がいいとかでもないですね
ただ海岸できゃっきゃしてるだけのアルロベちゃんの夢を見たのでそんな話を書いてみただけっていう
一時間くらいで短いお話

アルさんとロベさんお借りしました
最近そんなのばっかりな気がする、続きからどうぞです




「なんでこんな寒いときに海なんだよ」
「いいでしょ、誰もいない海を二人じめだよ?」
満足げに頷いて砂浜へと続く階段を降りていくアルの後を俺は追いかけた。
誰もいないはずの砂浜は瓶やら缶やらで汚れている。波打ち際にまで寄り添ったアルに靴は脱ぐなよ、と声をかけた。さすがに海には入らないとは思うが、時折心の底から理解できないことをしでかすのが彼女なのだ。
「海月いないねえ」
「寒いからじゃねえの」
寒いと海月がいなくなるかどうかは知らないが。
今日の昼過ぎ、突然海に行こうとアルは言い出した。何の用意もなく、着の身着のまま電車を乗り継いで一番近い海に来た。当然のことだが、とても寒い。海月すらいないような海で一体何をするつもりなのだろうか。
何の説明もされないのはいつものことだが、それを少し楽しんでいる自分に気付いてからはそんなに腹が立たなくなった。目覚めたとき枕元にプレゼントが置かれている子供が、中身を知りたくて仕方がないように。次に起こることが楽しみで、目を離すことがはばかられた。
「ねえ、ロベルトも一緒にお城作ろうよ」
柔らかく濡れた砂をアルは積み上げていく。手が、足が、服が汚れることなんて気にも留めないようで、時折流れ落ちる髪の毛を後ろに払っていた。
俺はため息をついてアルの背後に立つ。
「じっとしてろよ」
アルの髪の毛を両手で救い上げる。海風を受けてひどく冷たいその髪を、ヘアゴムでゆっくりと丁寧にまとめた。最近伸びてきた髪を切るのが面倒で、邪魔な時にいつでも縛れるようにと手首に着けていたものだ。確かアルがくれたものだった。
俺が髪を触っている間、アルはじっとしていた。それでも嬉しそうにしているのが伝わる。全身で喜びを表現しているアルがとても愛おしかった。
「ほら、もういいぞ」
ぽん、と片手で背中を押す。振り返ってありがとう、とアルが言った。そしてまた、砂の城を作り始める。俺が手を出しても出さなくても、城は完成させるつもりらしかった。
陽が傾き始めてもアルはせっせと城を作っている。大まかな見た目は出来ていると思うのだがディティールにまで拘るらしい。そこらに流れ着いていたゴミや貝殻を駆使して、世界に一つだけの脆い城を作っていく。材料を集めに城と浜辺の至る所をパタパタと行き来するのは見ていて楽しかった。彼女は妙なところで職人肌なのだ。
ようやく納得がいったのか、アルが腰を上げたのは陽が海に半分以上沈み込んでいた頃だった。空はもう半分以上が紺色に染まりかけている。
「ロベルトの城、完成」
アルは満足そうに数回頷いて、手についた砂を払った。そのくらいでは砂は落ちないようで結局海の中に手を突っ込んでいたが。
「お前の城じゃないのか」
「ううん、ロベルトのお城だよ」
楽しそうに首を振る。まとめた髪がちょっと遅れてついていった。
びちゃびちゃと濡れているアルの手にハンカチを渡す。アルはまたありがとうと笑った。
手を拭きながらアルが城を見る。俺もそれにならって視線を落とした。
「今日はクリスマスだからね、何かプレゼントしようと思って」
「……海月はどうするつもりだったんだ」
ありがとうとか、城がプレゼントなのかとか、どんな言葉を並べるよりも早く、海月が先に口をついて出た。アルはぽかんと口を開けて、それから声を出して笑った。アルはひとしきり笑って満足したのか「帰ろっか」と言った。大きく伸びをして、アルが砂浜を歩いていく。俺は携帯をポケットから取り出して、砂の城を写真に収めた。あまりきれいに映らなかったかもしれないが、それでもいいかと思った。
砂浜と階段の境目で大きく手を振ってアルが俺を呼ぶ。沈む太陽の光が砂浜に散らばった瓶や缶に当たってきらきらと光った。
俺はもう一枚、写真を携帯に残すことにした。
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